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山下准教授(動物生殖生理学研究室)の論文がReproductive Medicine and Biology誌に掲載されました。
Tonai S, Nakanishi T, Yamaoka M, Okamoto A, Shimada M, Yamashita Y.
日本語タイトル: トランスフェリン―Fe3+添加培地での前培養,それに続く体外成熟培養(In Vitro Maturation: IVM)はブタ卵子の発生能を向上させる
【概要】ウシやブタなどの家畜において卵巣の未成熟な卵胞から卵丘細胞卵子複合体(Cumulus-Oocyte Complex: COC)を回収し,体外で受精可能な卵子の状態まで成熟させる体外成熟培養法(In Vitro Maturation: IVM)は,品種改良や有用な形質(肉質や乳量など)を有する個体を作出するために重要な技術です。また,この方法はヒトにおいては不妊症の治療の一手段として用いられています。しかし,IVM法により作出される成熟卵子を体外受精後に作出される胚盤胞(着床直前の胚)の作成効率は20%程度と低く改善が望まれています。哺乳動物の卵子の成熟(受精可能な状態まで成熟すること)は,卵子の周りに存在する卵丘細胞が重要であることが知られていることから,卵丘細胞をいかにコンディション良く培養できるかが重要です。山下准教授は卵子を含む卵胞の中に貯留する卵胞液の成分を分析した結果,鉄輸送タンパク質として知られるトランスフェリン(Transferrin: TF)が高濃度蓄積することを見出しました。鉄と結合したTF(TF-Fe3+)はその受容体であるTFR1に結合して細胞内に鉄を供給することが知られていることから,1〜3mm(小卵胞),4〜7mm(中卵胞),8mm以上(大卵胞)のブタ卵胞の卵胞液に含まれるTF濃度と顆粒層細胞におけるTFR1の発現を解析し,体内のTF濃度を基にした前培養(Pre-IVM)-IVM法の開発を試みました。
顆粒層細胞におけるTf mRNA発現を解析した結果,ポジティブコントロールの肝臓に比べ小卵胞,中卵胞,大卵胞ともにTf mRNA発現は著しく低い値を示しました(図1A)。一方TFのタンパク質濃度は小卵胞から中卵胞までは5 mg/ml程度の濃度でしたが,大卵胞まで卵胞発育すると13.5 mg/mlの高濃度に存在し(図1B),卵胞液中の鉄濃度も大卵胞で高い値を示すことが明らかになりました(図1C)。そこで小卵胞,中卵胞,大卵胞の薄層切片を作成し,免疫蛍光染色法によりTFR1の局在を調べた結果,TFR1は中卵胞の卵子の周りの卵丘細胞と卵胞を裏打ちする顆粒層細胞に局在することを明らかにしました(図2)。
次にブタ卵巣からCOCを回収し,TF-Fe3+を添加してPre-IVMを行ったところ,卵子成熟に重要であるとされる卵丘細胞の増殖やエストラジオール-17b(E2)産生能を向上させることを明らかにしました。さらに,TF-Fe3+を添加したPre-IVM後にTF-Fe3+を添加してIVMを行うと卵子成熟を損なうこと,TF-Fe3+を添加したPre-IVM後にTF-Fe3+無添加培地でIVMを行うことで,既存の方法では20%程度であった卵子の発生率(胚盤胞率)が40%を超えるほどまで向上させることに成功しました。
本研究は,動物生殖生理学研究室の卒業生の藤内慎梧君(日本学術振興会特別研究員,現大阪大学微生物学研究所 博士研究員)が研究を進め,論文にまとめて発表に至りました。
【用語説明】
トランスフェリン:鉄輸送タンパク質として知られ,主に肝臓で合成され末梢組織に鉄を運搬する機能を持つ。
卵胞:卵子,卵子の周りの卵丘細胞,卵胞を裏打ちする顆粒層細胞を含む卵巣に存在する構造。卵胞内で卵子は卵丘細胞や顆粒層細胞などの体細胞の支持により受精後発生可能な卵子まで成熟することが知られる。
エストラジオール-17b: ステロイドホルモンでエストロゲンの一種。主に卵胞で合成され,卵丘細胞や顆粒層細胞の増殖を促すとともに,視床下部や下垂体に作用し,排卵を誘導する黄体形成ホルモン(Luteinizing Hormone: LH)の一過的放出を促すとともに,発情兆候を発現させる。
胚盤胞:受精後着床前の胚の発生ステージのこと。
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