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わたしたち菅研究室では、生命進化のメカニズムを、遺伝子レベルで解明するという壮大なテーマに挑んでいます。長い生物学研究の歴史から見ればごく最近に始まった学問と言えますが、近年長足の進歩を遂げています。
一言で生命の進化といっても、生命の誕生からヒトの進化まで、研究対象は無限にあります。菅研究室では、その中でも「動物が多細胞化できた秘密は何か」という疑問を遺伝子の観点から説明しようとしています。動物に非常に近いタイプの珍しい単細胞生物(単細胞ホロゾア - 動物がまだ単細胞だった時の生き残りです)を研究室で飼育しながら、その遺伝子の働き方を動物のそれと比較することが研究の中心です。そのようなテーマに正面から挑んでいる研究室は、私たちの知る限り、菅研究室を除けば世界であと2つしかありません(スペインRuiz-Trillo研とアメリカKing研)。現在、多くの日本の大学では、なかなかこうした純粋な基礎研究のテーマを追求するのは難しく、地方公立大学である県大だからこそできる研究といえるかもしれません。
もちろん簡単ではありません。道は遠く暗く果てしない。その道を照らす灯りさえも自分たちで作らねばなりません。しかし一旦灯りがともれば、たとえ薄暗くても、そこには無限のフロンティアが広がります。後に続く者は誰もいません。
県大では、たとえ学部生であっても、そのようなオンリーワンになることが可能です。なぜならば他の大学と異なり、研究室には3年生の春から所属し、2年間みっちり研究することができるからです。その成果を学会で発表することも夢物語ではないのです。
私、4年生の田中颯真は、2021年12月に横浜で開催された日本分子生物学会の年大会に参加し、2年間の研究成果を発表しました。日本分子生物学会は、会員一万人を超え、その年大会には、七千人が参加するといわれる、日本最大の科学コミュニティの一つです(大きければよいというものではありませんが)。参加者はプロの研究者か大学院生がほとんどで、学部生の姿はほとんどありません。更にその中でも、実際に研究成果を発表する者となるとほぼ皆無であると聞きました。
私にとっても初めての経験で、何から何まで不安でしたが、「始まったら楽しいから心配するな」という先生の意味不明な励ましのおかげで何とかポスターの準備をこなし、緊張しながら発表当日を迎えます。誰も聴きにこなければ楽でいいな、などと考えていたら、なぜか人がたくさんやってきて、質問攻めにされます。どうやら自分がやってきたことは多くのプロ研究者の興味を引くようなテーマらしい、と気づいたときには一時間半があっという間に終わっていました。もちろん足りない実験を指摘されたりもしましたが、多くのコメントは好意的なもので、ずいぶん励まされたりもしました。卒業後は県大の大学院でこの研究を続けるつもりの私にとっては、有意義この上ない経験でした。
菅研では、「研究を楽しめ」ということを常に言われます。その言葉自体は研究に限らずよく言われることですが、菅研では「研究を楽しむにはすごい努力が必要だ」ということも意味しています。先生から与えられたテーマをそのままやっているだけでは研究はいくらやっても楽しくならない。自分の研究の科学界、歴史における位置づけや意味、なぜ先生はそのテーマが面白いと思っているのか、といったことが理解できなければいつまでたってもやらされている研究になります。先生や先輩を質問攻めにし、自分でも死ぬほど考え、ミクロの世界で起きていることを想像して、卒業するころには、あたかも自分が最初から考えたテーマであったかの如くその意義について熱く語ることができるようになることが大事(らしい)です。それは社会に出てからも通用する、仕事に向き合う態度だと言われます。大学院に進んだとき、そうした境地に至ることができるのか、今回の学会参加でそのヒントが得られたような気がしています。
関連リンク
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