漆は日本で古来から漆器や建材のコーティングに使われてきました。美しく仕上げられた漆器は日本の美の象徴であり、海外ではjapanとさえ呼ばれます。しかし、日本の漆生産業が、現在大きな転換点にあることはあまり知られていません。現在日本で使用される漆液は90%以上が中国からの輸入品ですが、日本政府は最近、これを
順次国産に切り替える方針を打ち出しました。しかし後継者不足もあり、国産漆の増産は思うように進んでいないのです。大学ならではの技術と視点を生かし、この問題の解決に貢献できないものでしょうか?
生命科学科の
菅研究室の研究テーマは生物の進化、特に動物の多細胞化のメカニズムを分子レベルで解明するというものです。実生活には何の役にも立ちません。しかし主宰者の菅裕准教授は、その専門知識を生かし、京都府立大学及び三次産漆生産組合と共同で、
ウルシの木(Toxicodendron vernicifluum)のゲノム(全遺伝情報)を解読しようとしています。2017年、京都府夜久野町においてサンプリングを行い、現在抽出したゲノムDNAを解読中です。ゲノムを解読するだけでなく、その中の遺伝子がどのように働くことで漆液ができるのかを、RNAseqという手法を用いて明らかにしようとしています。更に最近、広島県北部の
三次市域が、古来から漆の有力な生産地であったことを
文献調査から明らかにし、三次の漆再興に向けた動きを後押しするなどの活動も行っています。
もちろんゲノム情報を解読したところで、すぐに国産漆の増産が実現するわけではありません。しかし将来こうした研究が、民間の発想を飛び越えたところで役立つかもしれません。例えば漆液が作られる時にどのような遺伝子が働くかが明らかになれば、効率的な漆液の人工合成や品質向上につながる可能性もあります。大学の存在意義は、このように、一般では考えが及ばないような大きな視点から社会の問題を解決するための基盤づくりを行うところにあります。県立広島大学の社会、地域貢献は開学当初からの筋金入りですが、大学ならではのアカデミックな視点から常に新しい発想を生み出そうとする、「県大型」の社会、地域貢献です。
何度も傷をつけられた8月のウルシ。古い傷は漆液によって固化しています。
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