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【生命科学コース】グラム陰性菌から分泌される毒素が卵巣機能を低下させることを解明 (山下准教授)
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2022年12月29日更新
【生命科学コース】グラム陰性菌から分泌される毒素が卵巣機能を低下させることを解明 (山下准教授)
Lipopolysaccharide (LPS) suppresses follicle development marker expression and enhances cytokine expressions, which results in fail to granulosa cell proliferation in developing follicle in cows.
Yamamoto N, Takeuchi H, Yamaoka M, Nakanishi T, Tonai S, Nishimura R, Morita T, Nagano M, Kameda S, Genda K, Kawase J, Yamashita Y.
Reprod Biol. 2022 Dec 5;23(1):100710.
doi: 10.1016/j.repbio.2022.100710.
日本語タイトル:ウシにおいてリポポリサッカライド(LPS)は卵胞発育マーカーの発現抑制とサイトカインの分泌増強を誘導し,発育卵胞の顆粒膜細胞の増殖が抑制される
【概要】これまで,子宮内膜炎を罹患したウシでは性周期の乱れが生じ,卵胞発育不全や排卵障害となることが知られていましたが,どの様なメカニズムでその様な症状が生じるのかは不明でした。子宮内膜炎は大腸菌などのグラム陰性菌が原因とされます。近年,グラム陰性菌の細胞膜から分泌される毒素のリポポリサッカライド(LPS)は,Toll様受容体4(Toll like receptor 4; TLR4)に捕捉され,初期免疫反応を誘導することが明らかになってきました。当研究室では,卵胞発育期の顆粒膜細胞に発現する遺伝子のトランスクリプトーム解析により,Tlr4 mRNAが発現することを見出したことから,健常ウシを用いて,卵巣サイズごとにTLR4の遺伝子およびタンパク質発現とその局在,血液中および卵胞液中のLPS濃度を測定しました。
この結果,Tlr4 mRNAおよびTLR4タンパク質は1〜3mm,4〜7mm程度の未熟な卵胞に多く発現し,その局在は顆粒膜細胞に存在することが明らかになりました(図1)。また卵胞液のLPS濃度を測定すると100 ng/ml程度存在することを明らかにしました。さらに子宮内膜炎を罹患したウシでは,TLR4依存的に発現することが報告されている急性炎症を誘導するTNF-aのmRNA発現が上昇し,慢性炎症時に発現するIL-1a,IL-1b,IL-6などのサイトカインの発現が上昇し,この時顆粒膜細胞の増殖が抑制されていることを確認しました。さらに卵胞液に含まれるLPS濃度で培養した顆粒膜細胞は,TNF-a,IL-1a,IL-1b,IL-6が発現し,顆粒膜細胞の増殖が抑制されていました(図2)。
以上の結果から,子宮内膜炎に罹患すると,患部から血中を介して卵巣にLPSが作用し,TLR4シグナルを活性化させる結果,卵胞内で急性炎症から慢性炎症を示すバイオマーカーの発現が増加し,顆粒膜細胞の増殖を抑制する結果,子宮内膜炎を罹患したウシで頻繁に認められる卵胞発育不全や排卵不全が生じることが強く示唆されました。
本研究は,島根県食肉衛生検査所の山本直樹 獣医師と動物生殖生理学研究室の卒業生である竹内媛乃さんが研究を進め,山本直樹 獣医師が論文にまとめて発表に至りました。
【用語説明】
子宮内膜炎; 子宮内へ細菌が感染することで子宮内膜に炎症が起こっている病態。着床不全や妊娠初期の早期における流産の原因の一つとして考えられている。
卵胞??卵子および顆粒膜細胞を含む卵巣に存在する構造。卵胞内で卵子は顆粒膜細胞などの体細胞の支持により成熟する。
TNF-a; Tumor Necrosis Factor-alpha(腫瘍壊死因子)。侵襲時に最も速やかに分泌される強力な因子の一つ。
サイトカイン; 演奏の重要な調節因子で細胞から分泌される低分子のタンパク質の総称。
Yamamoto N, Takeuchi H, Yamaoka M, Nakanishi T, Tonai S, Nishimura R, Morita T, Nagano M, Kameda S, Genda K, Kawase J, Yamashita Y.
Reprod Biol. 2022 Dec 5;23(1):100710.
doi: 10.1016/j.repbio.2022.100710.
日本語タイトル:ウシにおいてリポポリサッカライド(LPS)は卵胞発育マーカーの発現抑制とサイトカインの分泌増強を誘導し,発育卵胞の顆粒膜細胞の増殖が抑制される
【概要】これまで,子宮内膜炎を罹患したウシでは性周期の乱れが生じ,卵胞発育不全や排卵障害となることが知られていましたが,どの様なメカニズムでその様な症状が生じるのかは不明でした。子宮内膜炎は大腸菌などのグラム陰性菌が原因とされます。近年,グラム陰性菌の細胞膜から分泌される毒素のリポポリサッカライド(LPS)は,Toll様受容体4(Toll like receptor 4; TLR4)に捕捉され,初期免疫反応を誘導することが明らかになってきました。当研究室では,卵胞発育期の顆粒膜細胞に発現する遺伝子のトランスクリプトーム解析により,Tlr4 mRNAが発現することを見出したことから,健常ウシを用いて,卵巣サイズごとにTLR4の遺伝子およびタンパク質発現とその局在,血液中および卵胞液中のLPS濃度を測定しました。
この結果,Tlr4 mRNAおよびTLR4タンパク質は1〜3mm,4〜7mm程度の未熟な卵胞に多く発現し,その局在は顆粒膜細胞に存在することが明らかになりました(図1)。また卵胞液のLPS濃度を測定すると100 ng/ml程度存在することを明らかにしました。さらに子宮内膜炎を罹患したウシでは,TLR4依存的に発現することが報告されている急性炎症を誘導するTNF-aのmRNA発現が上昇し,慢性炎症時に発現するIL-1a,IL-1b,IL-6などのサイトカインの発現が上昇し,この時顆粒膜細胞の増殖が抑制されていることを確認しました。さらに卵胞液に含まれるLPS濃度で培養した顆粒膜細胞は,TNF-a,IL-1a,IL-1b,IL-6が発現し,顆粒膜細胞の増殖が抑制されていました(図2)。
以上の結果から,子宮内膜炎に罹患すると,患部から血中を介して卵巣にLPSが作用し,TLR4シグナルを活性化させる結果,卵胞内で急性炎症から慢性炎症を示すバイオマーカーの発現が増加し,顆粒膜細胞の増殖を抑制する結果,子宮内膜炎を罹患したウシで頻繁に認められる卵胞発育不全や排卵不全が生じることが強く示唆されました。
本研究は,島根県食肉衛生検査所の山本直樹 獣医師と動物生殖生理学研究室の卒業生である竹内媛乃さんが研究を進め,山本直樹 獣医師が論文にまとめて発表に至りました。
【用語説明】
子宮内膜炎; 子宮内へ細菌が感染することで子宮内膜に炎症が起こっている病態。着床不全や妊娠初期の早期における流産の原因の一つとして考えられている。
卵胞??卵子および顆粒膜細胞を含む卵巣に存在する構造。卵胞内で卵子は顆粒膜細胞などの体細胞の支持により成熟する。
TNF-a; Tumor Necrosis Factor-alpha(腫瘍壊死因子)。侵襲時に最も速やかに分泌される強力な因子の一つ。
サイトカイン; 演奏の重要な調節因子で細胞から分泌される低分子のタンパク質の総称。