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人間文化学専攻 修了生 正木智之さん(第一著者)、北台靖彦 教授(責任著者)の研究論文がInternational journal of experimental pathology誌に掲載されました。
Satoshi Masaki, Yoshimi Hashimoto, Shoma Kunisho, Akiko Kimoto, Yasuhiko Kitadai
Fatty change of the liver microenvironment influences the metastatic potential of colorectal cancer
Int J Exp Pathol. 2020 August 11. |https://doi.org/10.1111/iep.123
大腸癌は、すべての癌の約10%を占め、主な死亡原因は肝臓への転移です。一方、肝疾患については脂肪肝が最も多く、その患者数は世界的に増加傾向が見られます。癌転移における「seed and soil theory(種と土壌説)」は、1889年にPagetらにより提唱された仮説ですが、彼らは癌細胞(種)と、転移先の臓器(土壌、あるいは微小環境)との相性がよく、癌増殖に適している場合にのみ転移が成立すると提唱しています。この仮説は、今日、“微小環境”あるいは“癌?間質相互作用”として、分子生物学的に明らかにされつつあります。よって、転移臓器の環境の変化により、転移のリスクが大きく変化する可能性があることを意味します。しかし、これまで肝組織の微小環境における脂肪蓄積の変化と大腸癌転移との関連は明らかにされていません。
本研究では、脂肪肝状態を誘導したマウスに、大腸癌の細胞を脾臓に注入して実験的に癌転移を起こし、約4週間後に肝転移巣の平均腫瘍径(肝での増殖能)と個数(転移能)で評価しました。中程度の脂肪肝では、コントロールに比し腫瘍サイズは小さくなり、肝転移数に有意差はありませんでした。しかし、重度の脂肪肝を有するマウスでは有意に転移数が増加しました。
これらの結果は、肝臓の脂肪蓄積が高度の場合、大腸癌の肝転移能が促進される可能性を示しています。近年、食生活の変化により、現在、大腸癌や脂肪肝患者が増加していますが、脂肪肝が高度になると、大腸癌の肝転移のリスクが増加する可能性が示されました。本論文は脂肪肝環境が大腸癌肝転移のリスクに影響を与えることを証明し、肝転移における生活習慣改善の重要性を示した論文として極めて重要です。