本文
生命システム科学専攻博士課程後期に在籍している近藤 裕祐さんが,2023年6月に,米国ニュージャージー州プリンストンのプリンストン大学で開催されるクラミドモナスに関する国際学会「Chlamy2023」(The 20th International Conference on the Cell and Molecular Biology of Chlamydomonas)で発表しました。
今回の記事では,近藤さんの発表概要や,国際学会に向けて出発してから帰国するまでの様子をお届けします。
●研究の背景と目的
繊毛は真核生物に広く保存されている運動性の細胞小器官です。単細胞はそれを鞭のようにしならせて泳ぎますし,複数の繊毛をもつ細胞はそれを協調的に動かして細胞外に水流を起こすことで体の重要な機能を担っていたりします。実際に繊毛の機能が低下することでさまざまな症状が生じるヒトの遺伝病が報告されています(有名なのは男性不妊症,内臓逆位,慢性気管支炎)。繊毛が曲がるメカニズムは,モータータンパク質であるダイニンが繊毛の主たる構成線維である微小管を滑らせることによって生じることが分かっています。しかし,微小管の滑り運動が繊毛の鞭のようにしなる運動へと変換されるメカニズムはよくわかっていません。その理由の一つは繊毛の中には多種類のダイニンがあるというその複雑さです。繊毛のダイニンは大きく分けると外腕ダイニンと内腕ダイニンの二種類ですが,外腕ダイニンだけでも17種類の部品から構築されています。私の研究の目的はこのダイニンの部品が一つ一つ壊れているクラミドモナス(変異株)を見つけて,調べることでダイニンの部品の機能を明らかにしていくことです。細かい部品の機能が分かれば繊毛運動メカニズムを解き明かす手がかりをつかむことが出来ると考えています。
●今回の発表内容
1 世界初の変異株の発見とその特徴について
今まで見つかっていなかった全く新しいクラミドモナスの変異株を発見しました。この変異株は,外腕ダイニンの中間鎖と呼ばれる部分に異常があることで,繊毛運動の機能が低下していました。
2 変異株の研究から見えてきた中間鎖の新しい機能について
変異株のダイニンはモーター活性が低下しますが,条件によってそのモーター活性は大きく変化していました。これは中間鎖がダイニン全体のモーター活性を制御している可能性を示唆するものです。
●指導教員コメント
繊毛には多種類のダイニンモーターが規則正しく並んでいて,繊毛の波動はそれらが協調して生まれます。近藤さんの研究結果は,これまで謎とされてきたダイニン間の協調メカニズムを明らかにする上で大きな手掛かりになるものです。世界の専門家たちも大いに興味をそそられることでしょう。彼らの反応が楽しみです。(分子機械学研究室(八木俊樹教授))
今後の様子は,随時,庄原キャンパスツイッターでお知らせの予定です。お楽しみに!
左:往路の飛行機 右:プリンストン大学行きの電車
左:近藤さんが宿泊している大学の学生寮 右:大学内の建物
上:ポスター発表時の写真。Tシャツは国際会議で配られる記念品
左:プリンストン大学内のオブジェ 右:大学内で見かけた野生のリス
左:プリンストンの街並み 右:学会のバンケットでいただいたサーモン